空飛ぶタイヤ 池井戸潤

どうも、メケです。

今回は池井戸潤さん「空飛ぶタイヤ」です。

 

この小説が映画化されているのは知っていましたが見る機会がなく、そのままになっていました。今回小説を読んでみて、こんなにおもしろいのなら映画館で見ときゃよかったって少し後悔してます。

 

池井戸潤さん、私ファンになってしまいました。

 

はらはらドキドキがテンポよく進んでいく。涙あり、感動あり、いらだちもあり、腹立たしいこともあった。最後は悪代官狩野取締役(ホープ自動車のリコール隠しの主導者)が逮捕されて狼狽するシーンでは「してやったり」でした。スカッとしました。話の構成も適度に複雑、登場人物同士が互いに影響されつつ、物語はいい方へ収束していくのが読んでて伝わってきました。読んでて飽きが来なかったです。

 

正義は勝つ! いや、勝ってくれるから読めるってのもあります。どれだけ赤松(主人公)が打ちのめされようと、行き詰まろうと必ず立ち上がり、突破してくれるのです。

 

いやー、おもしろかったです。

 

この話は大手自動車会社のリコール隠しを下敷きにしてるもののノンフィクションです。実話では整備不良と言われた運送会社は倒産してますし、被害者家族も賠償金を弁護士から横取りされています(最終的に救済はされてるようですが)。せめてこの小説のように「最後に正義は勝つ!」といった感じに、実話もそうであってほしかったです。

 

感想

トータル3回泣きました。

小説で泣けるっていい。

 

あと何がいいって主役がはっきりしているのがいい。

 

結末が分かっているのもいい点だ。

最後は主役が勝つ! 

 

だから安心して見れる。

これってサイコー。

 

途中ハラハラ・ドキドキするも最後は必ず「ひかえよろう!このもんどころが・・・」とか、中村主水と菅井きんの「婿どのーーー」で一件落着となるやつに似ている。

 

水戸黄門、必殺仕事人。

 

安心のストーリー(皮肉ってるわけじゃない。話の終いが決まっているだけに、おもしろくするには構成がかなり大変なはず)だ。

 

そういう意味でこの小説はおもしろかった。

「構成がいい」ということを言いたかっただけなんだけども。

 

構成もいいし、テンポもいい。ほんとに後味のスッとする小説でした。

 

主役がはっきりしている

主役は赤松運送会社の赤松社長。

ある日自社のトラックが走行中に事故をおこす。突然外れたタイヤが転がって歩行中の親子に激突。母親を死なせてしまうことに。子供は軽症。タイヤの重さは140Kg。

 

警察から整備不良といわれ赤松運送会社は家宅捜査をうける。容疑者となった赤松社長は「整備不良」という、いわれのない容疑によって社会的信用を失い次々ピンチが訪れる。

 

取引先の離散、売上減、被害者から賠償請求、子供がいじめに合う、融資を断られる、新規取引先ができない、一括返済を求められたり、信用回復のための手段が次々なくなる。会社は綱渡り操業。

 

しかし毎回ギリギリのところでピンチを脱出する。そして赤松社長は情に厚く正直を地でいく人。そんな熱い人の熱血ストーリーがおもしろくないわけがない。

 

もう一人の主役

そしてこの小説のおもしろいところは、もう一つの軸で大手自動車メーカー(ホープ自動車)のリコール隠しを社内政治によって暴き、立て直そうとする輩がいることだ。

その名は沢田悠太。彼もホープ自動車社員。ほぼクレーム対応係と化している沢田課長。リコール隠しを主導する狩野取締役との対立(社内政治の駆け引き)もおもしろい。ここだけでも独立してストーリーができそうなくらい中身が充実している。

 

この沢田は赤松の正反対の生き方をしている点もおもしろい。情に厚く恩義を忘れない、愚直に真っすぐな赤松に対して沢田はクールに自分の目的を達成するためならば多少の犠牲はいとわない。最終的にはそのクールさがアダとなって狩野取締役に踏み絵を踏まされて苦汁をなめさせることになる。屈辱だっただろうに。しかし、沢田も最後は「赤松」や「杉本」「小巻」に影響されて、熱く愚直に立ち上がるのだ。この沢田の一発逆転がなければこの話は成立しなかっただろう。

 

狩野取締役の逮捕されるシーンは実に爽快であった。

 

軸がいくつもある

リコール隠しを首謀するホープ自動車と整備不良という濡れ衣を晴らそうとする赤松運送

この2社が2大対立軸。

 

融資銀行である東京ホープ銀行の井崎良一、リコール隠しをスクープしようとする週刊潮流の榎本

この二人がホープ自動車と赤松自動車にうまく絡み合う。

この二人は大学時代以来の親友。

互いの情報のやり取りで井崎はホープ自動車のリコール隠しに気づく。

 

そして最終的に井崎もホープ自動車の悪しき体質を改善すべく動く。結果的に沢田と赤松にいい方向にテコの原理が働くことになる。  

 

赤松PTA会長vs世間(片山&真下親子によるいじめ)

赤松が容疑者になったことによって息子拓郎がいじめに合う。そしてPTA会長である赤松までもが・・・。

最終的には片山&真下が赤っ恥をかく羽目に・・・。話は収束。そして、誰も助けてくれないならと拓郎は「自分へのいじめ」から一人立ち上がった。赤松がそれに勇気づけられる。

 

東京ホープ銀行による対大企業ホープ自動車と対中小企業赤松運送の融資対応の違い

中小企業への対応は現実でもこんなもんかと思うほどだった。貸し渋り、危うければすぐ回収。一方の大企業はグループ会社がなんとかして救済しようとする。それでもだめなら買収。

 

泣いた

タイヤが激突して死んだ柚木妙子。

葬式の日に赤松は訪れるが、夫や身内に辛く当たられる。

 

赤松は柚木の子供が書いた追悼文集を目にする。

タイトルは「もしも願いが叶うなら何をしたいですか」。

「もう一度、お母さんとお話させてください。」と一行だけ書いてあった。

 

コレを赤松が読んで涙する。

赤松がもしもコレが自分の子供だったら・・・と思う。こんなひどいことを。赤松は心底申し訳ないと思っているのに柚木(妙子の夫とその身内)にそれが伝わらない無念さ。そして自社の車は整備不良なんかなじゃないのに何を言っても「反省してない無責任」と言われ、ホープ自動車は全く意に介さずリコール隠し。自分の申し訳ないという気持ちが伝わらない、この無念さ。

私も泣きました。

 

もう一つ泣いた

右も左も八方塞がり。赤松は自殺しようと思った。今なら死ねると・・・。車を運転していて死のうとした。死にきれず帰宅。子供の愛らしい笑顔を見て死んじゃぁいけない。オレにはまだ待ってくれている人がいる。オレが死んだらこいつら永遠にオレを待たなくちゃならなくなるじゃないか。よし、あきらめないぞと赤松が涙するシーンがある。

 

ココでも私は泣いた。

 

まだ泣いた

そして、事故で死んだ柚木妙子の夫と息子「たかし」に送られてきたクリスマスプレゼント。それは赤松から。そのクリスマスプレゼントを夫は粉々に破壊した。そして、たかしと二人でクリスマスケーキを前に、空席の妙子に向かって語りかけるシーンがある。

嫁のいないクリスマスなんて。そして嫁がクリスマスプレゼントに編んでくれてた手袋を息子に渡す。嫁からの最後のプレゼントになるなんて・・・。

 

泣いたよ。泣き過ぎかもしれない。いいのだ。

 

最後に

空飛ぶタイヤ、おもしろかったです。

重すぎず、軽すぎず、複雑すぎず、すべてにおいて程よいバランスでした。

  

今回もあたりでした。

ごちそうさまでした。

 

そんじゃぁね。

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