どうも、メケです。
今回は久々に宮部みゆきさんに舞い戻りました。
中毒性がありますね。宮部みゆきさんの文章は「やばい」。
直木賞受賞作品です。テレビドラマにもなってます。この他にも以前に直木賞候補には6作品ほど上がってます。詳しくはウィキペディアに載ってます。
今回のは今まで読んだのに比べると立ち上がりはとても静かでした。読み続けるには、少々我慢が必要かもしれない。読み終わってみればいろいろ「家族」というものを考えさせられる小説でした。
目次
ざっくりと感想
最初は「大量殺人事件」の犯人探しをしながら読んでいました。けど、途中からは、なんというか、それぞれの登場人物の背負っている過去というか、生い立ちというか、それゆえにその家族に生まれた子供もまた親の「なにか」を背負わされているというか、とにかく、それぞれの登場人物について「家族」ってなんなんだと考えさせられました。
読む人によって主役は様々にかわるのではないでしょうか。主役級の人は何名もいますね。
登場人物ざっくりと
このレビューで僕が話す人達です。小説ではほかにもたくさんいますが基本この5人です。石田直澄、小糸信治、砂川信夫、八代裕二、宝井綾子と弟康隆。
石田直澄
父として威厳が欲しい。
小糸信治を助ける&競売で一儲けを企む。
小糸信治
2025号室を手放したくない。
石田直澄経由で夜逃げを装う。
砂川信夫
アパートの支払いに困っていた。
石田直澄経由で2025号室の占有屋の話。
小糸信治を装い、「ヴァンダール千住北ニューシティ」というバブル時代に建てられた高層マンションの2025号室に入居(占有)。
八代裕二
住み込みのパチンコ屋を追われる。
パチンコ屋の先輩、砂川信夫のアパートに住まわせてもらうことに。
宝井綾子
八代裕二との間に身ごもるが、結婚を断られる。
読み終わった直後の感想(ネタバレあり注意)

主役は「石田直澄」かな。
家庭では頭のいいせがれに「マヌケ呼ばわり」され、父としての威厳もなく肩身の狭い思いをしていた。少しはできるんだぞというところを見せたくて、格安物件を仕入れて金を稼ごうと競売物件に手を出した。
ちゃんと話せば「ヴァンダール千住北ニューシティ」というバブル時代に建てられた高層マンションの2025号室を泣く泣く手放さなければならなかった小糸信治一家に夜逃げを装わせ(競売物件にかけて競り落とし、占有屋を介して小糸信治にまた安値で売り渡し)「ひと儲けする」という筋書きを描いたのが「石田直澄」である。
ところが占有屋に占拠されてしまい・・・。どこからか歯車をかみ違えてしまい、話がどんどんややこしくなっていく。
石田直澄は最終的に殺人をしてもいないのに、大量殺人の現場に居合わせてしまうことになる。
八代裕二が2025号室の同居人(占有人)3人を殺害したところで、石田直澄に電話をして事件現場2025号室に呼び出したのである。凄惨な現場を目の当たりにした石田直澄は、否応なしに八代裕二の共犯者になってしまった。
石田直澄は、八代裕二に「1000万円で2025号室を立ち退いてやる」と話を持ちかけられていた。このことを八代裕二と同じ2025号室に同居する占有屋砂川信夫「小糸信治と名乗る男」に打ち明けていた。八代裕二と砂川信夫がそのことで仲違いし、殺人事件にまで発展してしまったのである。
僕はこの石田直澄が「砂川信夫」に「八代裕二の1000万円脅迫話」を持ちかける時点で「密室の故意」に当たるんじゃないかと思った。話す時点でそういう殺人事件は起こっても仕方ない、起こり得ると思える話なんじゃないだろうか。実際に殺人事件は起こってしまった。でも石田直澄は実際には殺って(手を汚して)ないのだ。
この凄惨な殺人事件現場を目の当たりにした石田直澄は「砂川信夫」に「八代裕二の1000万円脅迫話」をバラさなきゃよかったと自責の念にかられる。
石田直澄は再三にわたり砂川信夫に2025号室の立ち退きを要求していた。殺ってはいなくても、自分が犯人(立ち退きを巡り殺人事件に発展か?)と思われても仕方ないと思った。そして逃走することに。
僕は石田直澄はやっぱり、お人好しなんだと思った。密室の故意なんてなかったんだと思った。なぜなら八代裕二をベランダから突き落とした宝井綾子と赤ん坊をかばって逃走するぐらいの人なのだから。
事件の真相がわかるに連れて様々な家族模様が浮かび上がってくる
事件のいきさつから詳細についてはルポ的なインタビューの形でこの本の最後に出てくる。ここで事件の真相がわかることになる。けども、半分ぐらい読み進めたとこらへんから全体像は想像できていた。というか多分そういう書き方を宮部みゆきさんはしていたのだと思う。
途中からは、犯人探しというよりは登場人物の過去、背景など、どんなカラーの家族であったかに注意がいってしまった。そういう意味では各登場人物の持っている「家族」について考えさせられた小説だった。
宮部みゆきさんはそういうところ「様々な家族の闇」を狙って書いたんじゃないだろうか。
小説の中盤から後半にかけて

僕の中では主役は「宝井綾子」とその弟「宝井康隆」だった。
家族についていろいろ考えさせられた。
綾子は八代裕二にぞっこん。共依存の気質を持つおせっかい焼き。八代裕二はアル中親父と育児放棄をする母親のもとで育って「家庭」というものをわからない人物。宝井綾子は私なら彼を幸せにできると突っ走る。
八代裕二は幼少期に家族(両親)に苦しめられ、家族を嫌っていた。綾子はそれに気づず、「赤ん坊を身ごもり、うちで一緒に暮らそう」などという。八代裕二をわかっているようでわかってない綾子。
八代裕二は綾子の両親とは一緒に暮らしたくないし、綾子と結婚もしたくはないと思っていた。でも「金があれば綾子と幸せな家族を作れるかも」と突っ走る。綾子が八代裕二に一緒になろうと言ったからである。八代裕二は「家族」を嫌いつつも「自分の家族を作りたい」と願うその気持ちは複雑だ。
かなりやばい話だと思う。
なぜなら、2025号室の占有屋たちは一見家族に見えるがみんな赤の他人。互いに行きずり(様々な理由)で一緒に暮らすようになった。次第に家族のような感じになっていった。なのに大量殺人事件がおこってしまう。やばい話だと思うよ。
八代裕二が危険だったんだろうね。
そもそも家族が嫌で家出した。住み込みで働いていたパチンコ屋を追い出され、砂川信夫に出世払いでいいからと、とりあえず住まわせてもらうことになる。砂川信夫は行きずりで途方に暮れていた色んな人を拾ってきて、一緒に住まわせた。赤の他人同士がいつしか「家族」のようになってしまい、八代裕二はまたもやその「家族」を嫌になっていった。家族を手放したいついでに1000万円立ち退き話を思いつき、それがだめなら今までお世話になった2025号室の同居人までも殺害する。
冷静に考えたら、何かを得るために恐喝するとか殺人するなんて、そういう思考に及ぶことが恐ろしい。しかも今までさんざんお世話になった人達だ。
そしてもっと恐ろしいのが、「女の直感」ってやつだ。八代裕二に呼ばれてもいないのに、事件当夜に2025号室を訪れ、凄惨な殺人事件現場を目撃することになる。綾子は八代裕二と修羅場の争いの末、ベランダから彼を突き落としてしまう。殺ったのだ。
ありえない💦 綾子はまずは警察(110番とか救急車)じゃないか。
そして信じられないことに石田直澄は八代裕二と宝井綾子の修羅場の一部始終を傍で見ていたのだ。綾子の赤ちゃんを抱っこしたままで。
止めに入れよ💦
石田直澄は自責の念に駆られる。元はと言えば自分が撒いた種(八代裕二の1000万円立ち退き話を砂川信夫に打ち明けてしまった「密室の故意」というかそもそも競売物件を手に入れ砂川信夫に占有屋を頼み、小糸信治に売り戻しその粗利でひと儲けしようと企んだことがいけなかったのだけれども)。宝井綾子には幼い赤ん坊がいる。石田直澄はこの娘らをかばうため逃亡することとなる。
宝井綾子と弟康隆のやりとりが生々しい(ありえない!)
綾子は殺人について沈黙を続けた。
綾子は警察の捜査線上に浮上してこない。
綾子は弟宝井康隆に殺人のことを打ち明ける。そして弟の康隆の口から両親に話すと約束する。
ありえない💦 打ち明けるならまず親だし、本人の口からだろうがと思うが、そういう家庭なんだな。そんな約束あるか?と思った。
そして、宝井康隆はそのことを親に言い出すきっかけを掴めないまま思考が堂々巡り。
ありえない💦綾子を自主させんといかんだろうがって思った。
もうね、これすごいよ

めちゃくちゃ話が複雑。
2025号室に小糸一家と称して2025号室に一緒に住んで(占有して)いたみんなはそれぞれ赤の他人同士。
それぞれの過去の闇がすごすぎる。
嫁?の秋吉勝子、信夫の母のトメ(老婆)本名三田ハツエも信夫と共に生活するにいたった経緯がすごすぎる。普通なら警察につれていくね💦 なぜ信夫は自分家につれて帰り住まわせる? 当然ながらその息子?の八代裕二も過去の闇がすごすぎる。
互いに過去を詳しくは知らずとも長年共に生活すれば家族になれるのか。そう思った。
実はこの赤の他人同士だということは本人たちのほかに宝井綾子と弟康隆しか知らなかったのである。
なので、立ち退きを迫っていた石田直澄や小糸信治一家にも砂川信夫達は本当の家族に見えていたんだろう。
ほかにも色々登場人物はいる
- 片倉ハウスの経営者「片倉義文」とその家族
- 競売物件2025号室を購入した「石田直澄」とその家族
- 2025号室にもともと住んでいて家賃を支払えなくなって夜逃げした「小糸信治」超本人とその家族
- 夜逃げした小糸信治と入れ替わった2025号室の占有屋「砂川信夫」とその「家族?たち」
- 宝食堂の経営者「宝井睦夫」とその家族、娘に「綾子」弟「康隆」がいる
- 「佐野利明」ヴァンダール北千住ウエストタワーの管理人
- 隣2024号室の住人「北畠一家」
- 隣2023号室の住人「葛西夫妻」
- 1125号室の住人「佐藤一家」八代裕二が上階から落下してくるのを目撃
- 砂川信夫が家出する前の本当の「家族」、信夫は父と母の子ではなく、父の父、すなわち祖父と母親の間にできた子。母親は若い頃祖父(旦那の父親)にさんざんいじめられ祖父を憎んでいた。信夫はその祖父に外見がクリソツだった(小説では書かれてはなかったけど祖父にやられたときの子じゃないかと)。だから母の信夫に対する風当たりも相当きつかった。信夫は可哀想過ぎる生い立ちだったのだ。
ちょっとね、本当に思い出せないぐらいの数の登場人物がいる。「家族」とひとくくりにしているけど、それぞれ嫁さんもいれば娘もいたり、姑もいたりで・・・。そして様々な家族模様がある。
勝手な推測 タイトル「理由」の由来
なぜ、今そうなっているか。
2025号室の人達は寄せ集めである。
みんなそれぞれ理由があって今そこに一緒に住んでいる。
だからこの小説のタイトルは「理由」。
最終的に小糸一家と称して2025号室で共同生活していた人達。「みんな、この指とーまれ」といって一緒になったわけではない。
砂川信夫は家出せざるをえなかった人。
三田ハツエは老人ホームから外出中、ショッピングセンターで強盗にあい、暴行を受け記憶を一部失う。ショッピングセンター付近で座り込んでいるところを砂川信夫に拾われる。
八代裕二は住み込みのパチンコ店を追い出され、とりあえずの仮住まいとして信夫のアパートに住み始める。
秋吉勝子はよく覚えてないので割愛。
そして、不思議なことに全くの赤の他人なのに、八代裕二は信夫、勝子らからまるで本当の家族のように馴れ合いというかアテにされ始める。気がつけは八代裕二の嫌っていた「家族」になってしまっていたのだ。赤の他人同士なのに。しかしそこは、家族に苦しめられてきた八代裕二。同居人3人を殺害するのは八代裕二にとっては訳のないことだったんだろうな。
でも、実際にホンモノの家族でもこういう凄惨な殺人は起こったりするからなー。
本当の家族ってなんなんだろう?
考えさせられる。
まとめ
家族が嫌でもどこかで家族を求める。
子時代はうちの中で自由や権力がないから楽しくないんだよな。きっと。
背が伸びるたびに高いところの見えないモノがだんだん見えるようになっていく。
大人になるってそういうこと。
そして大人になるとまた人が恋しくなり家族が欲しくなる。
自分たち私達の家族。
子供のときは家から出たくてしょうがなかったのにね。
この小説のいう「家族」は分からないでもない。
いろんな親ガチャ、親戚ガチャが織り混ざっていたよ。
この話、小説でよかったなって思ったよ。
いつもながら、読み終わった後考えさせられる宮部みゆきさんらしい本でした。
「理由」ごちそうさまでした。
今日も最後まで読んで下さいましてありがとうございます。
そんじゃぁね。